データによるテニスの進化


  • テニスのIT化は思ったよりも進んでいる
ここ数年、いろんなスポーツにITが活用されていることは周知のとおりで、殊更ここで取り上げるつもりはありませんが、技術力・競技力のさらなる向上には、もはやITなくしては実現できないとさえ思えます。

テニスにおけるIT化で一番に思い浮かべるのは、グランドスラムなどでよく見かける「チャレンジシステム」で採用されている「ホークアイ」ではないでしょうか。我々が目にするのは、この「ホークアイ」を使って、審判のイン・アウトの判定に不服がある場合に、高精度カメラが捉えたボールの軌道からその真偽を確認するというものです。しかしながら、「ホークアイ」でとらえることができるのはボールのイン・アウトだけではありません。ボールの軌道、着地点もさることながら、ボールの回転、選手の動きやヒッティングポイントなどがデータ化され、これらを組み合わせることで、例えば錦織が1stセットのキープキープが続いたシチュエーションのサービスゲーム30-30であれば、バックに打つと80%の確率でクロスに返球する(注:この数値は私が適当に書いたものです)といったことがデータに基づいてわかるようになるのです。

  • ホークアイの裏側
「ホークアイ」では、コートの周辺に10台の高精度カメラが配置されます。このカメラで撮影されたデータはコントロールルームに集約され、数人のエンジニアがそれをチェックし、選手からのリクエストに応じてどのショットのどの部分を再現したいかを選択し、画面に表示します。
判定に誤りがあってはいけませんので、この「ホークアイ」を提供するイギリスの会社、Hawk-Eye Innovations Ltd. は大会の数日前から大量の機材とエンジニアを派遣し、チューニングに余念がないといいます。
当然、大会最終日までエンジニアは常駐するわけで、機材と人のコストを考えても、おいそれとどんな大会でも採用するわけにはいかなさそうです(当然、物理的にカメラが設置できなければそれまでですし)。

私も知らなかったのですが、この「ホークアイ」が最初に採用されたのは2006年らしく、すでに13年の歴史があるわけです。つまり、13年分のデータがすでにこの「ホークアイ」には保存されているということですね。

当然、これら13年分のデータを何もしていないわけがありません。
ERP(=Enterprise Resource Planning)パッケージソフトの最大手、ドイツのSAP社(エスエーピー社と発音します。サップとは言わないらしい。。。)は、2015年よりこの「ホークアイ」のデータを可視化し、選手やコーチに提供するサービスを始めています。う~ん、「ホークアイ」といい、「SAP」といい、名前を聞くだけでも利用料高そう~!と思ってしまいますが、多分実際に高いのでしょう。でもこのデータは非常に価値があって、ジャンケンに例えると、「このシチュエーションだと相手は92%の確率でパーを出す」というのが分かるわけですから、確実に優位に立てますよね。

  • ホークアイ、Foxtenn、SmartCourt
実は「ホークアイ」のようにコート上のあらゆるデータをトラッキングできる仕組みは他にもあります。スペインに本社を持つ「Foxtenn」は「ホークアイ」とほぼ同じようなデータがトラッキングでき、楽天ジャパンオープンなどで採用されています。ジョコビッチが出資したことで有名になったイスラエルのPlay Sight社の「Smart Court」は選手育成にフォーカスしているようですが、同じように打球の軌道や選手に動きをデータ化することができます。私個人的には、もっと多くの同種企業が現れ、競争原理が働き、もっと安価にこれらのシステムが提供されてその恩恵を受ける選手やコーチが増えて、テニスがもっとレベルが高くスリリングなゲームになることを望んでいます。
ちなみに、「Smart Court」は日本では千葉にある吉田記念センター(TTC)に導入されているとのことなので、是非何かのタイミングでインタビューできればと考えています。

  • テニスはどう進化するのか
ということで、ここまでは他のサイトやブログでも書かれている内容ですが、今後、テニスというスポーツはどういう進化を遂げるのかを少し考えてみたいと思います。

上述した通り、こういったデータを活用すると相手が打ってくる打球が高確率でわかるようになるのですが、もっと進化すると「相手は、データから俺がこういう打球を打つと思っているだろうから、裏をついてこっちに打つ」みたいな、裏の裏を突く戦略みたいなのが出てくるわけです。それがテレビ画面を通じて観戦する我々にデータとして提供されれば、選手同士の駆け引きというのが高次元で可視化され、これまでとはまったく違ったテニスの楽しみ方ができるわけです。
あるいは、友達同士で試合観戦していても、「このシチュエーションだとジョコビッチは1stサーブは高い確率でワイドに打つけど、どう思う?」「いや、ここはセンターにズドンでノータッチを狙うでしょ」みたいな会話ができるわけです。これって楽しくないですか?まるで選手の気持ちを掌握したかのような観戦ができるのです。

また別の機会で書こうと思いますが、私が思う「選手を応援したい」と思うモチベーションの大きな理由に、その選手のことを知っている、あるいは知りたいと思っていることが挙げられると思います。データはその最たるもので、自分の好きな選手が次にどういうプレーをするかが手に取るようにわかるようになれば、自分とシンクロして、例えば自分がフェデラーになった気分で、画面の向こうでプレーしているような気持になれると思うんですよね。これがVRという技術と融合すると、まさしく自分がフェデラーになった気分でウィンブルドンのセンターコートに立つことができるし、ゲームに応用されれば、自分がナダルになってフレンチオープンでプレーすることができるようになるのです。こんなことを考えると、テニスというスポーツとITは親和性が高くて、もっともっと我々を楽しませてくれる未来が想像できて、楽しくてしょうがないのです。ちょっと妄想がすぎましたかね。。。




コメント

  1. こんにちは。先日の三社戦でお世話になったマツオです。早速拝見させていただきました。
    ITとテニスについて深く掘り下げられていて、大変興味深い内容でした。ITとテニス、一見あまり関係なさそうですが、こういう視点でみると実に親和性の高い関係なのですね。
    自分もTV中継でスタッツが表示されたりすると、サービスコースの割合やポイント取得のパーセンテージ程度は気にして見ていますが、さらに進んだ分析もできるようになりそうですね。
    VR技術との融合も夢のある話です。いつかフェデラーとダブルス組んで、ジョコ・ナダルペアと試合する疑似体験ができる日が来るでしょうか?
    これからも深いテニスの話を楽しみにしています。

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    1. マツオさん、コメントありがとうございます。VRを使ったフェデラー、ナダル、ジョコビッチとのプレー体験は、近い将来必ず実現すると思います。先日のラグビーワールドカップでも、自由視点カメラというのがあって、選手と同じ目線で、選手とぶつかりそうなくらいの距離感でプレーを観ることができました。同じようなことがテニスでもできたらもっと楽しいですよね。ワクワクします。

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